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(全3回)僕らはなぜ立科町でリンゴ農家になったのか 下

立科町新規就農者 座談会

 長野県の東側、蓼科山のふもとに細長く位置する立科町。美味しいリンゴの生産者となるべく移住した人たちがいます。彼らは何に魅せられ、この地で農業に従事する決意をしたのか。新規就農者4人が座談会で語った本音を3回に分けてお伝えします。
中はこちら!

そして…お金の話
 

━販売の方法もいろいろあります。農協、直売所や道の駅、自信で行う直販など。収入にも関係してきます
 
中島:紹介していただいた方への直販以外、農協にも出しています。出荷の比率でいえば7:3で農協でしょうか。売り上げ比率は6:4くらい。直販のほうが効率は確かにいいですね。ただ、このままの比率か、直販を少し下げようかとも考えています。作業の兼ね合いとか、品種によっても違うので。直販の引き合いも含めて今はフジがメーンですけど、山際や平坦な場所など土地の条件によっても作業は変わります。たとえば加工用を増やして農協の出荷を増やしたりして、年間の労働強度を変える必要もあるのかなと。
 
岩波:去年が就農1年にもかかわらず、農協と町の直売所、自分でサイトを立ち上げてネット販売もやりました。「最初は農協に出してリンゴ作りに専念しなさい」という人もいます。収穫して、コンテナをそのまま出せばいいんだから圧倒的に楽だからね。僕の畑なら目の前が農協の共選所だし、ほか(の共選所)と比べて(買い取り額が)高いからなおさら。その誘惑はあります。でも、農協に出すやり方に頼ると、翌年は何をどの程度増やすかが分からなくなる。たとえ少しでもいいからやっておいて、たとえば「来年はこのくらいネット販売を増やそう」とか考えないと、収益が上がらないと思うんです。
 
松本:岩波さんがおっしゃる通り、立科町の共選所は単価も売り上げもほかより高いですよね。今のところ僕はほぼ農協です。あとは立科町の道の駅がやっているイベント、贈答用は知り合いだけです。
 
芳野:今は作るのに一生懸命で、今の皆さんの話を聞きながら「うわ、次はこれを売らなあかんのや」と思ってました。どうしようかな…。
 
岩波:そうでしょ。でもね、金額とか本当に大事なことはみんな話さないから
 
(一同、爆笑)
 
芳野:大量にさばけるのは農協でしょうから、あとはネット販売や町の直売所も考えてます。とりあえず、自分の畑はどれくらい採れるのか全体の収穫量を確認しないといけないですね。約200本のうち、30本ほどオーナー制(※11)にしました。流通経路が整っていないので、収入を確定できるかと思いました。あと10本くらい増やそうかと考えてます。
 
中島:以前、頼まれてオーナー制を1本だけやったことはあるんですが、作業との兼ね合いもあってやめました、1人なので。
 
岩波:収穫時期を相手に合わせないといけないから難しいよね。
 
━経営者としては収支だけでなく、収穫量などのデータ管理も大事だと思います
 
中島:収穫用の管理だけはやってます。農協からも来ますけど、自分で売る分は予約注文にしているので、「最低でもこれだけは集めないと」というのを、畑ごとに管理します。
 
岩波:僕は木ごとに管理しています。50本しかないのでできるんですけど、木を思い浮かべて、どの枝にどのくらいついてるかは覚えてます。1年目からもっと畑を広げたらと言われましたけど、それじゃ分からなくなっちゃう。
 
━売り上げ目標のようなものを設定しますか?
 
岩波:僕が属している五輪久保という地区は、誰も金額を言わないけれど、おおよそ探ってみると1反歩(約10a)で120万円を売り上げる計算です。ことしは実も大きいし、できがいいので高く設定したい気持ちにはなりますね。
 
中島:一般的には1反歩で100万円くらいの計算だからすごいですね。今は農家を辞めた方ですけど、以前、量をたくさん採る方法で1反歩200万円くらい売り上げたことがあったそうです。リンゴが高値の時代で、全部を直販ではあったようですが。
 
━自分でも手伝ってみて思いましたが、リンゴなど果樹の作業はほとんどが手作業です。単価が安いという思いを持ちました。現状が適正価格だと思いますか。
 
芳野:シャインマスカットが1房で何千円もの値段がついているのをみると、考えちゃいますね。
 
中島:リンゴが高いのか、安いのか…ちょっと難しいですね。自分でスーパーに行くと「果物って高いなぁ」とは思います。自分で買うかというと、リンゴも買えないかも。
 
松本:僕は分からないですね。
 
岩波:去年はネット販売ですけど5㌔7500円にしました。これで売れないなら、売り方が悪い、何も伝わっていないんだと。自分では美味しいと思うし、味には自信があるから。でも、正直なところ難しい。そこが新規就農の課題点かもしれないね。ただ、ポッドキャストを聞いていたら、「ただ高いのではなく、高い金を払う理由を提供してあげること。それを怠ったら売れるわけがない」と。だから霜で不作だった去年も、直売所は一番高く設定しました。その代わり、1つずつ蜜入りを確認して出したんですよ。
 
━個々で努力をされていますが、昨今の燃料高騰や円安は最も影響を受ける業種のひとつが農業です。いずれは価格転嫁も考えないといけないですか?
 
中島:とりあえず1年間やってみて、利益率を出してからどれくらい価格を上げるかという形にしようかと考えてます。上げたほうがいいのは分かってるけど、正直ここまで長引くとは思っていなかったので。
 
芳野:リンゴを入れる段ボールも値段が上がっているとか。
 
中島:ダイレクトに響いてるのはガソリン代、あとは防除の薬剤ですね。
 
岩波:薬剤の原料はほぼ輸入だからどうしてもね。シーズン前に防除の方針を話し合うときに、「値上げは覚悟してください」とはっきり言われた。10%は上がったんじゃないかな。

共選所に出荷する様子

これからの人たちへ
 

━今回、皆さんに集まっていただいたのは、これからも移住して新規に農業を始める方への参考にしていただきたいというのも趣旨です。ご意見があれば
 
中島:ほかの土地は知りませんけど、農業をやるには適していると思います。よく聞くのは、住宅地や国道が近い畑だと、人や車に気を付けないといけない。ある東信地区ですけど、お盆の時期に防除をしていたら、都会から帰ってきた人が「なんだ、あれは!」って警察に通報されたそうです。
 
岩波:地域が農業に理解があるのは大きいかな。軽井沢あたりでも別荘族と農家がもめているという話も聞きますね。
 
松本:僕の場合はリンゴ農家だと、とにかく共選所が近いというのも利点ですね
 
芳野:ほかにあまり産業がないから農業をやりやすいのはあるかな。リンゴも一年を通してやっているから、集中してできるという感じでしょうか。
 
━最後に、立科町で新規就農を目指す人へのアドバイスをお願いします
 
松本:スーパーとかホームセンターも近くて生活は充実してるんじゃないですか。車さえあれば、それほど遠くまで行かなくても困らないですから
 
岩波:人が優しいよね。とっつきにくいところもあるかもしれないけど、一歩踏み出すといろいろ教えてくれるから。ちょっとした勇気が未来を切り開いてくれるかもしれませんね。
 
中島:リアルなことを言えば、300万円くらいは貯めてきたほうがいいです。物理的な問題もあるけど、精神的な余裕にもかかわるというか。1年目に(残金が)100万円を切ったとき「やばい」と思いましたから。
 
 
━皆さん、本日はありがとうございました。
 
※11 オーナー制 木ごと個人や宿泊施設などに買い取ってもらい、栽培する。顧客が自ら収穫するほか、栽培農家が行う場合もある。

美味しいリンゴを食べにぜひ立科町までお越しください